組織診断と、組織アップデートの論点

再現性のある組織を
つくる

十人が八十点を出せる組織=論理的一貫性のある組織をつくる。
八十点に揃えるのは経営管理の領域——創造の百点は、仕組みに載せず守る。
課題・打ち手・実現可能性の三部で整理する。

2026年10月 / 各部署責任者からの聴取に基づく / 部署別の詳細は別紙 Appendix に収めている
第1章
01

課題 — 組織の現状と課題

組織崩壊の兆候、判断基準の不統一、そして意思決定の質。三つの課題は、一本につながっている。
先に言うべきことがある——従来の経営手法が、現在の組織規模に合わなくなっている。
1. 課題 / 最初に置く前提

このままでは、人材流出が始まり、組織運営と業績に深刻な影響を及ぼす

組織機能が低下するまでの連鎖

01

方針が頻繁に変わる

今日の一番と来週の一番が違う。頑張ったことが無駄になる経験が積み重なる。

02

現場が自主的に動かなくなる

「どうせまた変わる」を前提に、現場は確認してから動くようになる。

03

施策が継続せず、業績に影響する

固定費型の構造では、売上の減少が利益を直撃する。

04

退職が続く

一人が抜けると負荷が周囲に寄り、二人目・三人目が続く。短期間で組織の中核人材を失うおそれがある。

なぜ連鎖が止まらないか

  • 従来の経営手法が、現在の組織規模に合わなくなっている。オーナーの即断は、全部署を一人で見られる規模までは最速の経営だった——いまは七部署の判断が一点に集まり、どの領域にも十分な時間が取れない状態が聴取で確認されている
  • 聴取では、この連鎖の入口にあたる事象が複数の部署で確認されている(詳細は別紙 Appendix)
  • 特定の人への依存が強く、抜けたときに代われる人がいない。能力の問題ではなく、任せる経験を積む機会がなかったということ
  • 人が抜けることは、業績に大きく影響する。補充の採用費・立ち上げ期間の生産性・引き継ぎの負荷が、売上への影響とは別に重なる

これは誰かを責める話ではない。特定の人が抜けても業務を継続できる体制を、あらかじめ整える必要がある。
以降の打ち手は、すべてこの連鎖を断つことに向かっている。

1. 課題 / 再現性と論理的一貫性

再現性の高い組織=論理的に一貫した組織。現在は、その一貫性が保たれていない

十人のうち一人だけが百点の組織は、意図を察して動ける人に業務が偏り、その人が抜ければ止まる。十人が八十点なら、方針を示せば各自が動け、人が替わっても続く。必要なのは能力開発だけでなく論理的一貫性=誰がやっても同じ判断に辿り着ける状態——その五要件の現在地が、下の表である。

要件いまの状態現れ方
① 目標が言語化されている
何をもって達成とするかを、本人の言葉で言える
部分的 定義はされている。ただし中長期のロードマップを踏まえた目標になり切っていない部署がある。ロードマップを方向性に翻訳する場とプロセスが、まだ存在しない
② 手順が記録されている
個人の記憶ではなく、後から辿れる形で残っている
部分的 定義はされている。ただし守られていない。管理職層からの督促も行われていない
③ 判断材料が届く
決定・数字・過去の経緯が、必要な人に流れている
未整備 届いていない。会議が「決める場」として設計されておらず、決定と経緯が記録に残らない。必要な情報が共有されない
④ 決めてよい範囲が引かれている
どこまで自分で判断してよいかが分かる
未定義 決裁権限が階層別に定められていない。やり取りが個人の裁量に委ねられている。まず、権限の範囲を明確にする必要がある
⑤ 詰まったときの経路がある
誰に聞けば動き出せるかが、先に決まっている
部分的 相談は上がる。ただし部署によっては、解き方を持ち合わせていない

方針が十分に共有されず、権限も明確でないため、判断の一貫性が保たれていない。最も上流にあるのが方向(①)と権限(④)であり、手順・情報・経路だけを直しても、この二つが変わらない限り元に戻る。
※①②が「方針を示す」、③④が「各自が判断できる」、⑤が「止まらない」に対応する。部署ごとの八項目評価・確認された事象・到達すべき状態は、別紙 Appendix に収めている

1. 課題 / 課題の根っこ

課題の根本には意思決定の仕組みがある——質・一貫性・実行性を支える仕組みの不在

意思決定が覆ることで自走が失われ、さらに判断が集まる悪循環 01 材料が揃わないまま その場で決まる 02 現場は「また変わる」 と考え、確認しに来る 03 決めた経緯が残らず 合意が共有されない 04 結果の責任が現場に偏り 決める意欲が下がる 繰り返すたびに強まる 悪循環の起点は、十分な検討を経ずに意思決定が行われることにある
オーナーから見ると「現場が考えてくれない」
同じ構造から生じる認識の違い
現場から見ると「考えるだけ無駄」

この循環の読み方

  • どちらも本人にとっては正しく、相手の側からは見えない。片方だけを責めても動かない
  • 現場が確認しに来るのは、慎重だからではない。覆ることを前提に動いているため
  • 判断がオーナーに集まるのは、権限を握っているからではない。現場が決めても意味がない構造のため
  • 「自分で決めてよい」という言葉だけでは、意欲は戻らない。決めても覆らない経験が積み上がって初めて、現場は決め始める

悪循環を断つための三つの条件

  • 質——適切な材料と論理で、十分に検討してから決める。検討が不十分な決定は、記録しても後から覆りやすい
  • 一貫性——合理的な理由なく、決定が覆らない。記憶ではなく記録に残し、変えるなら決めた場で
  • 実行性——決定が、現場の行動につながる。現場の検討過程が尊重され、決定事項が実行される状態

最も深刻なのは個々の判断の良し悪しではなく、この三つを支える仕組みがないことである。以降の打ち手は、三条件に対応している。

1. 課題 / 第1章の結論

意思決定を、個人への依存から組織の仕組みへ移す

判断の質・一貫性・実行性を、個人の能力や努力ではなく、組織の構造で担保する。

観点As-Is|現在To-Be|目指す状態
意思決定の質 材料が揃わないまま、その場で決まる → 必要な材料を揃え、定められた場で決める
意思決定の一貫性 決定が覆り、現場が「どうせ変わる」と学習する → 決定が記録され、合理的な理由なく覆らない
意思決定の権限 誰が決めてよいか分からず、オーナーに確認が集まる → 権限が明確で、各レイヤーが自律的に決める
意思決定の実行性 現場が判断を避け、さらにオーナーに依存する → 決定が実行され、結果に対して責任を持つ

判断の質を高めるだけでは、集中による構造的な限界は解消できない——だから、権限そのものを移す。権限委譲は効率化の話ではなく、意思決定の集中を解消するための組織改革である。
委譲は目的ではなく、再現性のある組織を実現するための手段である。第2章で、その設計——二層の役割・方針・権限・実行体制——を示す。

第2章
02

打ち手 — 経営と執行の役割を分け、連携させる

経営レイヤー=オーナーと執行役員。執行レイヤー=執行役員と各部マネージャー。
執行役員が二つの層に属し、経営方針を実行計画につなげる。オーナーに残すのは、固有の二領域と代表としての留保決裁に絞る。
2. 打ち手 / レイヤーの定義① 経営レイヤー

経営レイヤー=オーナーと執行役員。経営方針と権限を定める

経営レイヤー(オーナーと執行役員)の定義。オーナーに残す二領域と、それ以外の委譲 執行レイヤー 企画 店舗 PR バックオフィス EC 生産管理 営業 各部署の日常業務は、マネージャー(部署長)が判断する 経営レイヤー オーナー固有の二領域 ・対外的な顔と、業界人脈 ・投資の意思決定 オーナー 日常の執行判断を委譲 執行役員 経営方針を提案し、 オーナーと議論して決める

経営レイヤーの仕事は三つ——経営方針(重点テーマ)の策定、決裁権限の設定、そして★事項の決裁。オーナーには役割としての固有二領域に加え、権限としての留保決裁(経営計画・予算・管理職人事・重い懲戒・対外公表など、権限表の◎)が残る。委譲するのは、それ以外の日常の執行判断である。
本提案が構造化するのは、経営管理の領域に限る。意匠・クリエイティブの判断は、オーナーの直感が価値を生む領域として、本提案の標準化の対象から除く——ただし判断が納期・予算・負荷に波及する場合、納期・予算・人員への影響は、管掌執行役員が計画に反映する(急な変更は「何を優先順位から外すか」とセットで)。意匠に関する判断かどうかの判定は管掌執行役員が行い、見解が分かれた場合は経営会議で判断する。※固有領域と留保決裁の線引きは、この場で決められる

2. 打ち手 / レイヤーの定義② 執行レイヤー

執行レイヤー=執行役員と各部マネージャー。経営方針を具体的な施策に移す

執行レイヤー(執行役員と各部マネージャー)の定義。執行役員が二層をつなぐ構造 経営レイヤー オーナー固有の二領域 ・対外的な顔と、業界人脈 ・投資の意思決定 オーナー 日常の執行判断を委譲 執行レイヤー 執行役員 二つの層に属し、 経営方針を実行計画につなげる 企画 店舗 PR バックオフィス EC 生産管理 営業 各部署の日常業務は、マネージャー(部署長)が判断する

執行レイヤーの仕事は、合意したテーマを行動計画に落とし、個人まで下ろして実行すること。各部署の運営は、マネージャーが決定する。
執行役員は両方の層に属する。経営レイヤーでは経営方針を提案し、執行レイヤーでは計画に落とす——二層をつなぐのが、この役割である。

2. 打ち手 / 役割と決裁の三階層

役割と決裁事項を、三つの階層で明確にする

階層担う役割主な決裁事項(権限表の◎)
オーナー
経営レイヤー
対外的な関係構築と投資判断。中長期的には、ブランド哲学の言語化や重要な取引関係の承継を主導する 経営計画・予算、管理職(M1・M2)の人事、重い懲戒、対外公表、1件1,000万円超の支出・契約、★事項の最終決裁(経営会議の審議を経て)
執行役員
二つの層に属す
経営方針の提案、実行計画の策定、部署間の調整、人材の配置・育成、進捗管理と課題解決 管掌部門の一般社員の採用・評価・配置・給与改定、1件300万円以下の支出・契約・設備投資、承認済みのMD予算・OTB枠内の仕入・発注とマークダウン(300万円超〜1,000万円の帯は取締役の将来枠——空席の間は代表が決裁)
マネージャー
執行レイヤー
担当部署の運営と日常的な意思決定、個人目標の設定、メンバーの育成、現場課題の把握と対応 支出はM2=10万・M1=3万・G4=1万円以下、アルバイト・派遣の採用(M2)、NDA締結(M1)、経費精算・勤怠の承認

「役割」は各階層が責任を持って担う仕事、「決裁権」は各階層が最終的に決定できる範囲を示す。
日常業務の判断を各階層に委譲し、オーナーが重要な経営判断に専念できる体制をつくる。※全文は別表「職務権限一覧表」(8分類80項目)

2. 打ち手 / 経営レイヤーの仕事① 方向性の定義

方向性は執行役員が提案し、オーナーと議論して決める。
合意した方針は、所定の手続きなく変更しない

経営方針の決定手順

01

執行役員が、年間の方向性を提案する

数字と現場の実感から案をつくる。執行役員が原案を用意する。

02

オーナーと議論し、経営レイヤーで合意する

十分に検討してから決める。検討が不十分な決定は、記録しても後から覆りやすい。

03

各部署に、取り組みテーマとして下ろす

テーマ=年間1〜2個の重要改善指標に絞る。これが執行レイヤーの出発点になる。

04

変更は、決めた場に戻して理由とともに

変更の経路を一本にする。必要な方針変更は認めつつ、変更手続きを明確にする。

なぜ「1〜2個」に絞るか

  • 重点を絞らなければ、どの施策も十分に進まない。現場の可処分時間は有限である
  • 絞れば、方針変更による手戻りを減らせる——徒労感の発生源を断つ
  • 指標が絞られて初めて、達成度を評価と紐づけられる
  • 方向性が揺れないことが、第1章の悪循環を断つ最初の条件である

経営方針の決定は、経営レイヤーの責任である。方針が定まらなければ、各部署の計画も定まらない。

2. 打ち手 / 経営レイヤーの仕事② 権限の定義

誰が何を決裁するか——職務権限一覧表のたたき台をもとに、権限を明確にする

レイヤー決裁者最終決裁(◎)する範囲の例線の引き方
経営
レイヤー
代表取締役(オーナー) 経営計画・予算、管理職(M1・M2)の人事、1件1,000万円超の支出・契約、懲戒解雇等の重い懲戒、対外公表 重要事項(★)は経営会議で事前審議してから決裁する
取締役(管掌)
空席の間は代表が決裁
1件300万円超1,000万円以下の支出・契約、部門をまたぐ異動、チームの新設・改廃、運用ガイドライン 代表への事後報告(▲)とセットで委任する
執行
レイヤー
執行役員(管掌) 管掌部門の一般社員の採用・評価・配置・給与改定、1件300万円以下の支出・契約・設備投資、OTB枠内の仕入・発注とマークダウン 部門運営の日常業務の判断は、原則この階層で完結させる
マネージャー層
(M2・M1・G4)
支出はM2=10万円・M1=3万円・G4=1万円以下。アルバイト・派遣の採用(M2)、NDA締結(M1)、経費精算・勤怠の承認 少額・定型の判断は現場で完結させ、滞留をなくす

全文は別表「職務権限一覧表」(8分類80項目)を参照。決裁の区分は六つ——◎最終決裁・○承認・△協議・▲事後報告・●受任・★経営会議で事前審議。自己決裁は禁止。
職務権限規程の別表として位置づける(施行は合意後の翌月1日を想定)。※「取締役」「CXO」は現時点で空席の将来枠。現行の決裁階層は代表・執行役員・マネージャーの三層で、空席の間は読み替えで運用する(取締役の◎は、重い事項は代表に・定型事項は管掌執行役員が担い、CXOの協議は管掌外の執行役員が担う)。取締役と執行役員は上下関係ではなく、就任時に関係を定め直す。金額の線と区分も含め、この場で決められる

2. 打ち手 / 執行レイヤーの仕事

合意したテーマを実行計画を策定し、個人目標と評価につなげる

実行計画の運用

01

取り組みテーマをもとに、行動計画を策定する

経営レイヤーで合意したテーマを、執行レイヤーが実行可能な計画に具体化する。

02

行動計画は、執行レイヤーで確定する

計画の決定権は執行レイヤーにある。経営会議へは承認ではなく共有——ただし予算超過・テーマの変更・重要な経営リスクを伴う場合のみ、経営会議で再審議する。

03

行動目標を、個人目標まで具体化する

テーマに基づく目標を各担当者の目標に具体化し、本人と合意する。

04

評価に反映する

達成度と、どう達成したかを見る。テーマ偏重を避け、部署の基盤業務と併せて評価する。※評価への正式接続は制度設計後(人事コンサルと協業)。立ち上げ期間中は評価に直結させない

これで何が変わるか

  • お題を渡せば動く状態になる——確認してから動く組織から、計画に沿って動く組織へ
  • 担当者未定の案件が残らない。計画策定時に、担当者を決める
  • 評価がテーマへの貢献と結びつき、納得感が上がる
  • オーナーへの説明責任は執行役員が持つ。現場への直接指示を避ける

決定の階層——経営レイヤー=年間テーマ・予算・主要成果指標/執行レイヤー=行動計画と部署横断の優先順位/マネージャー=自部署の日常業務。経営レイヤーは権限内の個別施策を都度承認しない。共有(報告)と、例外時の再審議だけを持つ——ただし計画内の個別の支出・契約の決裁は、権限表の区分に従う。

2. 打ち手 / 執行役員の仕事と分担

執行役員の仕事は、MVVを実務に反映し、現場での実行を支えること

執行役員が担う領域

MVV・Pasand Promise に基づく「あるべき」を整理する組織と日々の動き方の基準に落とす。定着は仕組みではなく運用で決まる※いずれも既に社内で定めている理念・行動指針
行動指針に基づいて評価・登用する達成度だけでなく、どう達成したかを見る
経営方針を提案し、重点テーマを各部署に展開する年間1〜2個の重要改善指標に絞り、個人まで下ろして合意する
現場の運営を統括するマネージャーが決めた運営を全体として見る。部署をまたぐ調整を引き受ける
人を配置し、育てる必要な人材を配置し、育成・採用を判断する
進捗を確認し、課題を解決する決まったことが動いているかを見る。制度だけで対応できない課題は、関係者と調整して解決する

この役割が機能するための条件 / 運用開始前に確定する

分担の決め方初期の委譲範囲は経営レイヤーで合意する。範囲内の分担・業務配分は、二名が自ら決める(全部署に主管1名)
既存業務の見直しいまの業務から何を委譲・削減するかを決める※棚卸しは運用開始前の確認事項
対立の裁定意見が割れたら、二名で選択肢を整理し、経営会議に付議する。個別にオーナーへ持ち込まない
不在の代行1名不在はもう1名が代行、両名不在は代表。議長・記録も同じ順で読み替える
負荷の確認30日レビューの点検領域に執行役員自身の負荷を含める(本人申告+会議時間の実績)
機能不全の検知滞留・遅延・介入の未処理から検知する。委譲範囲の見直しは経営会議で、二名の間の分担の組み替えは本人たちが決める

制度の整備だけでなく、執行役員が無理なく運用できる体制が必要である。上段が執行役員の担う領域、下段がそれを支える条件である。※役割分担書が確定してから、運用を開始する

2. 打ち手 / デザインチームの動き方

デザインは、仕組みの外で守る——オーナーとの直接の関係は変えない

変えないこと

  • オーナーとデザインチームの直接の対話・指示は、これまで通り——唯一、階層を介さない公式のルートとして位置づける
  • 意匠の最終判断はオーナー(固有領域)。会議体を待たず、直感のスピードで決めてよい
  • デザインの評価・登用も、意匠の基準はオーナーの目を正とする

ブランドの競争力は、この直接の関係から生まれてきた。ここは標準化の対象にしない——例外ではなく、設計として守る。

三つだけ、仕組みに乗せる

01

納期・予算・人員への波及

意匠判断が計画に波及する部分は、管掌執行役員が計画に反映する(急な変更は「何を優先順位から外すか」とセットで)。

02

意匠か、運営かの判定

判定は管掌執行役員が行い、見解が分かれたら経営会議で決める。現場は判定しない。

03

決定の記録

意匠起点の変更も決定ログに残す。責めるためではなく、関係部署が追えるように。

デザインチームが得るもの——変更が計画に翻訳されるため、突貫と手戻りが減る。創作の自由はそのままに、周辺の負荷だけが仕組みに吸収される。

第3章
03

実現可能性 — この形が機能するための条件

制度は、実際に運用されて初めて機能する。
委譲した権限の尊重、重要事項の決定手順、会議体の運用。三つを先に合意しておく必要がある。
3. 実現可能性 / 委譲の守り方

委譲と放置は異なる。そして、権限を越えた直接指示は、組織の自律性を損なう

委譲を守る五つの運用

01

懸念があれば、責任者に確認する

指示ではなく質問の形で——質問であれば、判断は責任者に残る。

02

追加案件は、既存業務の優先順位と合わせて判断する

急な依頼を禁止するわけではない。新しい業務を加える際は、既存業務の見直しも行う。

03

責任者を置けない企画は「今期はやらない」

無理に責任者を立てない。名目上の責任者を置いても、実行責任は明確にならない。

04

部門横断の取り組みは、経営方針として共有する

方針がないままだと、部門をまたぐ取り組みは負担の押し付けと受け取られる。

05

責任者が機能しない場合は、支援または交代を判断する

必要な支援を行い、改善が難しければ交代を検討する。対応を先送りしない。

不安は避けられない。避けられるのは、直接の指示に戻ることである——責任者を飛ばして現場に伝えた瞬間、委譲は無効になり、現場は「結局は上が決める」と学習する。

残した領域では(三つ)

01

議論に加わる

相談が上がったテーマには、結論が出るまで関わる。途中で離れると、決まらないまま止まる。

02

経緯と結論を残す

記憶ではなく記録に。残っていれば、次に同じ議論をせずに済む。※責任追及のための記録ではない

03

決めた進め方を尊重する

工程や期限を動かす場合は、決めた場に戻して、理由とともに変える。

問題は、相談が来ることではない。来た後の扱われ方である。議論に加わりきらないまま進み、経緯が残らず、進め方が途中で変わる——結果、原因の所在が部署の側に見えてしまう。

どちらも「合意した意思決定の手順を守る」という一つのことである。現場との対話はこれまで通りでよい——会議体に乗せるのは指示と決定だけである。対話と決定の経路が分かれていれば委譲は保たれ、分かれなければ全体が機能しない。※「残した領域」は二領域に限らず、★・◎として経営会議に上がったテーマ全般を指す。緊急時の例外はレポートライン(後述)で定める

3. 実現可能性 / 決定の重さ

権限委譲後、オーナーは重要事項の決裁に集中する。
決定事項の扱いが、制度への信頼を左右する

決定の扱い・四つの原則

01

決定事項を記録し、継続して確認する

決定はその場で記録され、次の会議の冒頭で確認される。口頭の確認に頼らず、記録で共有する。

02

決定責任と実行責任を区別する

結果が出なかったときの原因は、意思決定の前提や計画も検証する。責任が決めた場に残ることが、現場が決め始める条件になる。

03

同じ方向を向く

経営レイヤーと執行レイヤーは、評価する側とされる側である前に、同じ目標を持つ一つのチームである。

04

現場の意欲を支える

考えているという事実を尊重し、挑戦を後押しする。これはオーナーにしかできない仕事である。

重要事項の決定に求められること

  • 委譲後のオーナーの決定は、件数が減る分一つひとつが重くなる
  • 覆る・忘れられる・責任が現場に降りる——どれか一つ起きるだけで、権限委譲への信頼が損なわれる
  • 決定が守られる経験が積み重なって初めて、現場は自分で決め始める

決定の扱いが変わらない限り、第1章の悪循環は断てない。
この四つが運用として回ることが、断つための最初の条件になる。

3. 実現可能性 / 会議体とオペレーション

意思決定の場と頻度を定め、確認や手戻りを減らす

会議体頻度決めること出席Input → Output
経営会議 月次 方向性(年間テーマ・予算・主要成果指標)と権限の線、★事項の事前審議、30日ごとの運用レビュー。行動計画は共有を受けるのみ(例外時は再審議) オーナー・執行役員 In: 全社3点セット・決裁一覧・★起案
Out: 経営判断・確定テーマ・決定ログ
執行会議 週次 行動計画の確定と進捗、詰まりの解消、部署横断の優先順位 執行役員・マネージャー In: 各部の週報・上位会議の決定
Out: 調整結果・更新した行動計画・上申(★起案)
部署会議 週次 自部署の取り組みテーマと行動目標の進捗 マネージャー・メンバー In: 個人の進捗・現場の詰まり・決定共有
Out: 個人のアクション・週報(執行会議へ)

会議を増やす提案ではない。決める場所を固定することで、場外の確認・差し戻し・「言った言わない」を減らす。階層を跨ぐ相談は、個別ではなく会議体に乗せる。
下の会議のOutputが上の会議のInputになり、上の決定が翌週の伝達で下へ戻る。情報は「3点セット(週報)」と「決定ログ」の二つの様式だけで循環させ、新しい管理資料は作らない。※構成・頻度はたたき台。この場で増減を決められる

3. 実現可能性 / 会議の運用規格

会議の運用ルールを統一する——議長・記録・欠席の扱いまで、先に固定する

会議体開催・所要議長記録固定アジェンダ欠席時
経営会議 毎月第1週
90分
執行役員(輪番)
オーナーは判断に集中する
議長でない執行役員 ①前回決定の確認 ②月次数字と取り組みテーマの進捗 ③★事項の事前審議 ④▲事項(決裁一覧)の一括報告 ⑤方向性・権限の線の見直し ⑥決定の読み上げ オーナー欠席でも審議は行う。代表決裁の議題のみ保留し、3営業日内に決裁。執行役員1名欠席は開催可
執行会議 毎週火曜
60分
執行役員(隔週交代) マネージャー輪番 ①決定ログ差分の確認・持ち越し ②各部の3点セット報告 ③部署をまたぐ調整 ④判断が必要な事項の決定 ⑤決定の読み上げ マネージャー欠席は代理者が代読。2回連続なら執行役員が状況確認
部署会議 毎週・30分
水〜木で部署固定
マネージャー メンバー輪番 ①決定共有・取り組みテーマの実績 ②今週の行動 ③詰まりの特定(執行会議に上げるものを決める) 運営はマネージャー裁量(延期せず代行を推奨)

決定は「決定ログ」(1案件1行:起案日・決定・理由・決裁者・実行責任者・期限・完了日・見直し条件)として単一のファイルに残し、会議の最後に読み上げて確認する。ログは原則全社で閲覧でき(人事・懲戒は別管理)、上位会議の決定は翌朝、各部の朝礼・ログ閲覧で現場へ届く。
議題と週報は前日正午までに提出し、会議中の資料読み上げは行わない。★・◎事項の起案は様式(背景・選択肢・棄却理由・推奨案・見直し条件)で出す——材料が先に揃うから、会議即日で決められる。急ぎの★・◎事項は、議長またはオーナーが臨時経営会議を招集するか、期限付きの持ち回り決裁で処理し、結果を決定ログに残す。※様式には督促責任者を置く(週報=管掌執行役員・ログ=議長)。2回続けて守られない様式は、執行会議の議題にする。時間・曜日はたたき台

3. 実現可能性 / レポートライン

報告経路を三段階に整理する。
緊急時の直接報告は認めるが、指示系統は維持する

報告何を場・頻度様式
メンバー
→ マネージャー
行動目標の進捗と、詰まり 部署会議・週次 口頭+会議メモ
マネージャー
→ 執行役員
3点セット:①取り組みテーマの進捗(実績vs計画)②詰まり(自部署で解けないこと)③判断が要る事項(選択肢+推奨案+期限)+決裁一覧(▲事項)+通常の指示系統以外から受けた指示・提案 執行会議・週次 週報1枚(規格固定)
執行役員
→ オーナー
全社の3点セット+決裁一覧(▲事項)+★・◎事項の起案 経営会議・月次 経営会議資料(規格固定)
例外01 重大事案人身・信用・法令・情報の被害拡大防止に限り、安全確保の初動はその場で行ってよい(事前に委譲)。発見者は管掌執行役員と代表へ直ちに同時報告し、恒久対応の決定は権限表のラインで行い、結果は決定ログに残す——日常の判断を「緊急」と呼んで迂回しない
例外02 当事者相談直属の上長が当事者である相談は、一つ上の階層、または管掌外の執行役員へ直接
例外03 発言の重さオーナーの発言は、現場への軽い指示ではなく、経営計画に反映すべき重さを持つ——だから現場はその場で行動を変えず、管掌執行役員が受けて計画に落とし込む(執行役員が知った時点から24時間以内に、意匠は即日計画反映・運営の変更は採用/撤回を決定ログで通知)。指示が実行に乗るまでのタイムライン感は、執行役員とともに中長期で改善していく

3点セットの様式が揃うと、部署会議→執行会議→経営会議で、同じ型の情報が粒度だけ変わって上がる。▲事項は1件ずつ報告せず、決裁一覧として週報・経営会議資料に添付して一括報告する。

3. 実現可能性 / 導入の三段階

導入は三段階——設計し、90日で立ち上げ、定着させる

Phase期間の目安主にやること完了条件(成果物)
1 設計・合意 着手決定〜
1.5〜2ヶ月
固有領域と留保決裁の確定/二名の分担の文書化(相互バックアップ含む)/権限表現時点版・会議体の確定/各部のテーマと日常判断の仮置き/現状ベースライン測定(設計用の臨時経営会議を2回置く) 役割分担書・権限表現時点版・会議体規格・テーマ一覧・ベースライン1枚
2 立ち上げ 90日 マネージャー説明会/会議体と決定ログの運用開始/権限委譲と行動計画の運用/30日ごとのレビュー(テーマは初回仮置き・30日で確定) 決定ログの稼働・介入処理の実績・運用課題リスト
3 定着・改善 91日目〜 ルールの修正/評価制度との接続/管理職の育成/四半期の定期診断 改訂権限表・評価への接続・診断レポート

立ち上げ90日は、三つの指標(次ページ)で点検する——越権介入の発生件数と処理率・意思決定リードタイム・滞留/未実行の件数。12ヶ月の結果指標(離職率・オーナー判断件数の削減)は中長期で検証する。
90日レビューで、検証結果に基づき、続け方——権限の線・会議規格・委譲の広げ方——を経営会議で決める。キーパーソンの離職、または業績の大幅な悪化が起きた場合は、90日を待たず臨時レビューで切り分ける。※期間は仮説。開始日はこの場で決められる

3. 実現可能性 / 運用の点検

測る・点検する・直す・残す——運用状況を確認し、継続的に改善する

① 測る(毎週・執行会議の議長が集計) → ② 点検する(30日ごと・経営会議で五つの窓) → ③ 直す(決めた場で——権限の線・規格・分担) → ④ 残す(「運用修正」としてログへ、次の30日に反映)

測る指標(三つ)定義測定
越権介入の
発生件数と処理率
介入の件数と、24時間以内にログで処理(採用/撤回)された割合 週報「ライン外」欄と持ち越し確認で検知。処理率100%を保ち、件数の逓減を見る
意思決定リードタイム ★・◎事項の、起案から決裁までの日数(中央値) ログの起案日→決裁日から集計。開始30日目を起点に推移を見る
滞留・未実行の件数 期限超過の未決定(滞留)と、未実行の決定(放置)の件数 滞留は執行会議で毎週カウント。未実行はログの期限・完了日から
点検項目(五つ)確認すること使う情報修正を決める場
① 権限委譲 委譲した判断が、その階層で完結したか(上位者への判断の差し戻し事例) 決定ログ・介入処理の記録 経営会議(権限の線を修正)
② 意思決定 理由のない変更の有無と、差し戻しの理由(質の定性) 三指標・ログの変更履歴 経営会議
③ 会議体 決める場として機能したか(議題の終わり方の内訳) 各会議の決定ログ 執行会議で規格を修正
④ 実行管理 行動計画どおり動いたか・決定が期限内に実行されたか 週報・ログの期限と完了日 執行会議
⑤ 人材・負荷 過度な負荷の集中と、手放すはずの業務が残っていないか 本人申告・会議時間・棚卸し表との突合 委譲範囲=経営会議/二名の分担=執行役員

点検は月次経営会議のアジェンダ拡張で行い、オーナーによる直接介入の状況も確認する。※数値目標は開始後の実測で確定。結果指標(離職率・オーナー判断件数)は中長期

おわりに / この先にある組織

「いなくても回る」は、人を減らす話ではない。
全員を、自由にする話である

それぞれが、できるようになること

オーナー会社を空けられる。対外・投資・ブランドの仕事に、安心して出られる——不在の間も、決まった形で会社が回る
執行役員任せて、休める。不在は相互バックアップが吸収する——一人で抱え込む構造から抜け出せる
マネージャー・メンバー「自分がいないと回らない」から解放される。引き継げるから、次の挑戦に移れる——成長の機会が増える
会社・ブランド人が入れ替わっても、事業と世界観が続く——採用と登用の自由度が上がり、人に賭けられる会社になる

再現性は、人を縛るためではなく、人を自由にするためにある。
特定の誰かへの依存をやめることは、その人の価値を下げることではない——その人を、不在の不安から解放することである。

おわりに / 判断いただくこと

本日ご検討いただきたいのは、組織改革に着手するかどうか

判断いただくこと

主たる判断この組織改革に着手するか二層の定義/方向性と権限の言語化/会議体の固定。設計1.5〜2ヶ月ののち運用を始め、
30日ごとに点検して直し続ける。90日レビューで、続け方をオーナーと決める。
90日の検証結果に基づき、委譲の範囲と運用を見直す——権限の再変更は、事前に合意した評価基準と正式な決定プロセスによってのみ行う。
この場での即断は求めない——持ち帰りのうえ、期日を置いてご判断いただく。
着手する場合、続けて
01 いつから始めるか着手日を確定する
02 制度設計と運用の担当者を決める権限表と会議体の初版はたたき台が既にある。改訂・運用の責任者を決める

あわせて確認すること

  • 診断の内容に、事実と違うところはないか(この整理は聴取に基づく仮説である)
  • オーナー固有の二領域(対外・投資)と、代表としての留保決裁(権限表の◎)の線引きは、これでよいか。増減はこの場で決められる
  • 経営レイヤーと執行レイヤーの形、執行役員二名の役割に、無理はないか
    ※二名の分担は、運用開始前に文書で確定する

外部パートナーの関与(契約の形)は、別紙で扱う。
まず、この組織の形から決める。

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